あたりまえの

「いま、ミッフィーが好きなんだ」
娘が言った。
急所を突かれた。
うさこちゃんうさこちゃんとうみ、ちいさなさかな、私の子供時代にもあった、大切な、あたりまえの、本。
なぜ私はそれらの本を、娘に与えてあげなかったのだろう。
それらの本は、娘をどんなに愉しませただろう。それを思うとたまらない。
「あたりまえの」
それが大きな落とし穴だったのか。私の網膜に焼きついている、うさこちゃんの絵本のことば。うみのひの貝の色、形。ゆきのひの、白い雪のふくらみ、屋根の形。
それがあまりにもあたりまえだったので、それを娘に伝えるのは私だということに、気がつかなかった。
初めての子育ては、盲目のように手探りだった。
それらの本があったら・・
もしタイム・トラベルが可能なら・・
迷わず数冊のうさこちゃんの本を、赤子を産み落としたばかりの若い母親に手渡したい。
それらの本は、母と子を結ぶ蝶番の役を果たし、導いてくれたことだろう。
心配そうに娘の顔を覗き込んでいた。この人を困らせてはいけないと小さな娘は思ったのだろう、我儘をいわない子供だった。
機を逸したことには気がついていた。
ぽかりとそこに黒い穴があいているよう・・し損ねたこと。
小さな子供の目に、それを見せてあげたかった。聞かせてあげたかった。おとうさんのふわふわさんのことば、海までカートにひかれ、遊びつかれてねむってしまう一日を。
せめて娘の誕生日にプレゼントしよう。大切な、あたりまえの、素敵な本を。

ちいさなうさこちゃん (ブルーナの絵本)

ちいさなうさこちゃん (ブルーナの絵本)

うさこちゃんとうみ (ブルーナの絵本)

うさこちゃんとうみ (ブルーナの絵本)

ゆきのひのうさこちゃん (ブルーナの絵本)

ゆきのひのうさこちゃん (ブルーナの絵本)

ちいさなさかな (ブルーナの絵本)

ちいさなさかな (ブルーナの絵本)