男の座標軸 『夜間飛行』 サン=テグジュペリ

『星の王子様』のサン=テグジュペリの他の作品を読んでみたくなり、図書館で借りた本書。

夜間飛行 (サン=テグジュペリ・コレクション)

夜間飛行 (サン=テグジュペリ・コレクション)

見えてきたのは「男の座標軸」ともいうべきもので。
座標軸という言葉は倉橋由美子作品にしばしば顕れる言葉であり、それは女として生きなければならないのだから視点を何処に置くか、自分自身を何処に立たせて書くか、ということかと思うのだが。
そこで私が感じたものは、女という存在は過去から未来まで一直線に繋がる存在ともいえる。というものである。
そして『夜間飛行』、この作品が見せてくれたのは、男の世界の見方。20世紀初頭、飛行機という、人類に全く新しい視点を与えた機械を操り、この世界を見渡した男の物語。
それはあくまで横に広がる平面世界を征服しようとする、「今」だけを生きようとする男の視点だった。
サン=テグジュペリは、思索、あるいは瞑想のために空を飛んだ。夜の飛行、闇の中の飛行。人間が、たった一人で闇に立ち向かうとき、何と直面するのか。
そして空を飛びながら、鳥類の眼を得て人類の営みを眺めた。大地に浮ぶ家々の営み。ささやかなランプの明かり、窓辺に飾られた花、夫のために入れられた一杯のコーヒー。空から人類の営みを愛をもって眺める、懐かしむ、憐れみとともに眺める。
二度と其処に帰ることはできないかもしれないという覚悟をもって。
飛行士ファビアンの死は崇高に描かれる。高く、高く飛ぼうとするイカロスの翼は太陽に溶かされて失墜するように。ファビアンは高く、高く飛ぼうとする。

登場人物リヴィエールのモデルとされるディディエ・ドーラ氏は明かす。サン=テグジュペリはおそろしく有能な、人間的価値を有していたという。残忍で略奪をねらう諸部族、マウル人遊牧民と友情を結ぶことに成功し、昨日の敵たちを路線の大事業に協力させることができた。そして技術者としても秀でていた彼は幾つもの特許出願をし、航空学に貢献したという。

私はまだ良くわからない。作者がリヴィエールに言わせた言葉
「人間を識るためには彼らを愛さなければならないが・・・それを彼らに言ってはならない」
作者は本心を私たちに言ってはいないのではないだろうか?
サン=テグジュペリの生き方は明らかに人間を愛したようである。その愛し方は誰にでもできるやりかたではない。
男たちは、征服のために、地図を塗り替えるために今を生きるだろう。高く飛びすぎれば落ちるだろう。1個の命を愛さないものは、何千個、何万個の命を死に導くだろう。男たちは1個の小さな幸せを捨て、簡単に「美しく」死んでいくだろう。サン=テグジュペリはそれを私たちに知らせているだけなのかもしれない。
私たちはまだ、答えを見つけてはいないのではないだろうか。