ふたりのゆり

野中ユリの作品集が欲しいが高価で手が出ない。そこで手に入れた一冊は野中ユリの銅版画が挟み込まれた『ことばの食卓』武田百合子。 鉛がかった青いクロスに置かれた静物のノスタルジイ。遠い日の夏の入道雲の匂い。そして武田百合子の硝子玉のような視線が…

愛読

今年もまた桜が咲いた。 午前中は息子の入学式に列席した土曜日、帰りに夫と待ち合わせてお花見の予定。朝は晴れていたのに俄かにかき曇る空、花の所為それとも... 待ち合わせ場所を俄かに九段下に変更したものの人波から逸れて清水門に穴場をみつける。暫し…

積読主義

量子力学 I (物理学大系―基礎物理篇)作者: 朝永振一郎出版社/メーカー: みすず書房発売日: 1969/12/20メディア: 単行本購入: 3人 クリック: 51回この商品を含むブログ (20件) を見るお薦めいただいたこちらは朝永振一郎博士の教科書。文体確認のため、まず図…

不思議な天才

一泊の温泉行の鞄、ディラックの文庫とフィリップ・ソレルス『ドラマ』を一旦入れた後、借りたのを忘れていたファインマンのエッセイを発見、差し替える。鶯鳴く人里離れた宿、竹林の露天、川のせせらぎ葉のそよぎ、いとも微小なる計算機のおはなし...ファイ…

――エリオット

「うつろな男たち」 くるつサン――死ンダヨ 高松雄一 訳うつろな男たち ガイの奴に一ペニーやっとくれ Ⅰ 俺たちのなかみはからっぽだ 俺たちのなかみはつめものだ よりそって立ってはみるが 頭のなかは藁のくず、ああ! 俺たちがささやくと かわいた声が ひそ…

最前列で, それとも最後尾から.

春休み, 細切れの時間に捲る講義のページ. 最前列で熱心な学生のように全文書き写したくなる. ハミルトンの形式の方程式中のポアソン括弧を, 公式にしたがって交換関係ab-baに置き換えることによって, 直ちに古典力学のすべての方程式から掛け算が非可換であ…

講義の時間

語る数式、ディラックのこちらは教科書『量子力学』ほど語の硬度は高くないものの、数式が自然のあるべきように展開されて(させて)いく様を記述する様が見事です。(理解のほどはともかく)文体が好きで読んでいるから動機不純気味。ディラック現代物理学講義 …

グールド/音楽/メカニック

私は、彼らに関しては主観的でしかありえないようだ。そして、或る意味では、私がトロント・シンフォニーに抱く愛着は、私が持っている一、二台のピアノに感じている愛着を思わせなくもない。それらはかなり特殊なメカニックをそなえた楽器であって、…だがこ…

『素粒子の宴』

南部陽一郎氏とポリツァー氏の対談(1979年)。若さと臨場感溢れる、素粒子物理学のお喋りが愉しい。 学者同士の相互作用は素粒子のふるまいに似て...素粒子の宴 新装版作者: 南部陽一郎,H・D・ポリツァー出版社/メーカー: 工作舎発売日: 2008/11/13メディア: …

遊読

モーリス・ブランショ『虚構の言語』から。 言語は一つの記号の言語であって、その特性は、言語が狙っているものによって満たされることではなくて、狙っているものを欠くことであり、言語がわれわれに到達させてやりたいと思う物をわれわれに与えないで、自…

『モレルの発明』 アドルフォ・ビオイ=カサーレス

ボルヘスの親密な友人ビオイ=カサーレスによる、ロブ=グリエ『去年マリエンバートで』の霊感源ともなった作品、清水徹氏による翻訳。 不思議な飴玉のような、といったら可笑しいだろうか。透明な丸い飴玉を舐め進むうちに瞼に映し出される幻、からくり、装…

フランソワ・チェン 『ティエンイの物語』

ティエンイの物語作者: フランソワ・チェン,辻由美出版社/メーカー: みすず書房発売日: 2011/09/10メディア: 単行本 クリック: 3回この商品を含むブログ (2件) を見る「中国の詩的言語」に触発されて、みすず書房からこの9月に翻訳出版されたフランソワ・チ…

 『記号の横断』

ジュリア・クリステヴァ編著『記号の横断』。 フランソワ・チェン氏「中国の詩的言語」(松枝到・訳)における言語は言語的好奇心をくすぐる。フランス語で書かれたパロール「書かれた、それでいて際限なく語りつづけるパロール。文字に立脚した書き言葉、文…

ロラン・バルト 『喪の日記』

ロラン・バルト 喪の日記作者: ロラン・バルト,石川美子出版社/メーカー: みすず書房発売日: 2009/12/23メディア: 単行本購入: 5人 クリック: 48回この商品を含むブログ (22件) を見る小さなカードに書かれ、日付順に並べられ、五つの部分に分けられていた「…

『ユーモア』

図書館で借りた白水社文庫クセジュ『ユーモア』が興味深い。イギリス人が自ら語ろうとしないユーモアについてのフランス人による考察。 不可能な定義、ユーモア。言葉と実態との出会い。アイロニー。イギリス人の魂に秘められている極端に相反する二つの情熱…

独白あるいは応答による心理劇 『倦怠』 アルベルト・モラヴィア

『軽蔑』と『倦怠』、この二作品は対を為すように思われる。フローベールの『ボヴァリー夫人』と『感情教育』が対を為すように。 『軽蔑』では神話オデュッセイになぞらえて悲劇が演じられた。愛し合う夫婦に軽蔑が一粒混じりこむ、 『倦怠』では悲劇からの…

真と偽 『不思議な少年(  号)』 自己あるいは複製をめぐって

不思議な少年 (岩波文庫)作者: マークトウェイン,Mark Twain,中野好夫出版社/メーカー: 岩波書店発売日: 1999/12/16メディア: 文庫 クリック: 59回この商品を含むブログ (48件) を見るわたしはこの作品が好きだった。トウェイン完訳コレクション 不思議な少…

日々是積読 弥生の朔日 新月

落ち着くのを待っていてはいつまでも、と思い、図書館から借りて積んでいる本でも並べてみましょう。ガリレオ作者: アンニバレ・ファントリ,大谷啓治,須藤和夫出版社/メーカー: みすず書房発売日: 2010/01/20メディア: 単行本 クリック: 1回この商品を含むブ…

『ニューヨークの啓示』 フィリップ・ソレルス

紀伊国屋書店新宿本店の「在庫僅少本コーナー」で見つけた本書。みすず書房の棚には濃い紫色の出版社在庫僅少本の帯が巻かれている。1981年に書かれ1985年に翻訳出版、みすず、精興社の組み合わせが嬉しい。あるページの端が複雑に折れ曲がっている、乱丁と…

川端康成 視線と筆致

ドガ展への行き帰りにバッグに忍ばせた川端康成の『愛する人達』。ドガの絵画との相性、川端康成の視線と筆致の滑らかさはたまらない。あのぎょろりとした眼は女を見つめる。娘を見つめる。少女を見つめる。ひとりでに女は語りだす。少女は動きはじめる。男…

エリアス・カネッティを読みたい

以前『眩暈』を読みたくて図書館から借りて読み始めたことがあるが、あまり読み進まずに返してしまった。小説に5千円近く支払うのは私には勇気が要る。それで『眩暈』の前に評伝を読んでしまった。エリアス・カネッティ―変身と同一 (叢書・ウニベルシタス)作…

メルロ=ポンティの眼差し 「眼と精神」

憑かれたように進む言説。眼と精神作者: モーリス・メルロ=ポンティ,滝浦静雄,木田元出版社/メーカー: みすず書房発売日: 1966/12/01メディア: 単行本購入: 1人 クリック: 13回この商品を含むブログ (18件) を見る 一方の眼と他方の眼・一方の手と他方の手の…

メモ メルロ=ポンティ

「語り止めぬ沈黙」 絵画について論ずること。「語り止めぬ沈黙」としての言語を捉えること。 視覚は、存在の裂解に内側から立ち会うために贈られた手段なのである 言語は<存在>の最も信頼すべき証人となる 存在を差異化し構造化して意味を浮き上がらせる…

和解

「席につくと、私はとなりの椅子が空いているのに気づいた。身を乗り出してみると、名標の上にメルロの名前が見えた。私は上の空でメルロ=ポンティを待っていた...彼はやってきた。いつものように遅れて。...彼は爪先立ちで私のうしろに回り、軽く私の肩にふ…

メルロ=ポンティ

「眼と精神」を読みたい。 世界がわれわれにたいして光のもとに現れる時、われわれは生の深い喜びを感ずる。そして絵画はこの根源的な喜びを祝うための儀式であるがゆえに、陽ざしのしたで画家がカンヴァスの上に鮮やかな絵具を置いていく時には、祝祭の時の…

読書の秋

『エレガントな宇宙』は延長したのにもかかわらず、あれこれ読み散らかしているうちに読了しないまま返却となったのが残念ですが、時間をおいてまた読みたいと思っています。 かわりに借りてきたのはこの3冊。とミセス(雑誌)ガリレオの弁明―ルネサンスを震…

気分をかえて

まず、題名が良い。エレガントな宇宙―超ひも理論がすべてを解明する作者: ブライアングリーン,Brian Greene,林一,林大出版社/メーカー: 草思社発売日: 2001/12/01メディア: 単行本購入: 18人 クリック: 278回この商品を含むブログ (109件) を見る「超ひも理…

『黄金の百合』 フィリップ・ソレルス

《小さなものを知覚すること、それは眼力をもつことにほかならぬ。弱いものだけにとどめること、それは強いことにほかならぬ》 愛を信じる無神論者による受胎告知、愛の告白の書。ハッピーエンドで。 1989年の作品と考えると、しようがないかもしれない。 「…

カプリ島のそらの青うみの色 サン・ミケーレ荘

カプリ島を訪れたのは何度目かのイタリア旅行。ナポリに一泊し、船でソレントへ移動し宿をとり、ソレント港からカプリ島へ渡って。多くの人がさらに小舟に乗り換え「青の洞窟」へと進むのに背を向け、ブランド店が軒を連ねる島の繁華街を抜け、海の見える道…

これは小説ではない、STUDIOだ

思索の部屋の実況中継。これは文字で書かれたものだろうか?呟きを録音して文字に起したものだろうか?ソレルス氏の思索はどちらで行われるのか?いづれにしても彼は音(母音)にこだわるらしい。(翻訳は可能か) ある意味、ツイッター文学的な独り語り、呟…