詩のある小説 フローベール

好きな小説を3つ挙げるならフローベール『感情教育』メリメ『カルメン』ラファイエット夫人『クレーヴの奥方』を挙げますが西脇順三郎氏いわく 小説はフローベルが一番好きであった。フローベルを読んでから詩に対する興味を大部分失くした。それほどフロー…

詩をねがう詩人 西脇順三郎

私にとって、言葉に対する執着というものがだいぶ遅くなってからあらわれたので、詩に目を向けるのもだいぶ遅くなってしまった。 西脇氏は、「詩」は「美」であるという。そうあることを願うという。 詩という言葉で自分は藝術の美というものを表現したい。…

フィリップ・ソレルス

清水徹氏の見事な翻訳による「奇妙な孤独」に魅せられ、「例外の理論」に衝撃を受け。 「例外の理論」は旅から帰り、慌てて読み終えて図書館に帰してしまったのですが、これほど勇気のある書物が既に書かれていたのに驚き。というよりも、最近の動向に無関心…

<レ島だけが例外だ> 

レ島への到着には、ちょっとした魔法のようなところがある。堂々巡りを続ける円軌道から離脱中の衛星に乗り込むのに似ているといえばいいだろうか。 この島というのが、まさに即自的な島なのだ。平坦なもの。船の甲板。中間的な場所。まったくの偶然からそこ…

『例外の理論』フィリップ・ソレルス 抜粋

言語の肯定性はとどまることを知らないのだ。<言葉>なくしては何ひとつなされることがなかった。だから<言葉>は、人間とわたしたち人間とともに、これまでなされたこと、そしてこれからなされることすべての終末を超えていくのである。 無意識は言語のよ…

天使による、天使についての

「奇妙な孤独」フィリップ・ソレルス読みおえた 眩い光「で」書かれた、たった1編の小説。 「例外」についてソレルスは生涯通じて解き明かそうと試みるようだが、これは自身の例外と、例外たらしめた例外との出会いを閉じ込めるために書かれた小説。 翼は生…

「奇妙な孤独」抜粋

こうした仮定の全てに対して、ぼくはこう答えていた、意識を明晰にたもつことがぼくの関心事であったから、ぼくは自分を自分に対立させているのだ、と。絶対的な信頼と冷静さでもって、ぼくはそういう仮定に応酬していたのだ。 こうしたいたずらはぼくを苛ら…

翻訳者の小説の翻訳

フィリップ・ソレルスの「奇妙な孤独」 あまり素敵なので読み終えたくない...このような小説を翻訳する清水氏は、その奇怪な共犯関係を愉しむので、読むものもそれに荷担せざるをえない、という書物の快楽 ぼくはじきに気がついた、言葉の使い方が特殊にすぎ…

宝探し

ボルヘスの迷宮で宝探し そこにはあらゆるものがある。 未来の細密な歴史、大天使の自伝、図書館の信ずべきカタログ、何千という偽のカタログ、これらのカタログの虚偽性の論証、真実のカタログの虚偽性の論証、王たちのグノーシス派の福音書、この福音書の…

読了 『時間割』 ミシェル・ビュトール

(予言より少し早く)。 「あ!」と小さく叫ぶ。確か「思索装置」だったでしょうか。この物語も列車の到着から始まり、列車ががたりと自身を運ぼうとする瞬間に閉じられる。(裂け目を残して) コメント不能、としても良いけれど、訳者清水徹氏の解説は看過不能。…

『武蔵野夫人』大岡昇平

読了後、なかなか印象が去らないので記しておくことに ドルジェル伯爵夫人のような心の動きは時代おくれであろうか ラディゲ 題辞にも記された「時代おくれ」というものは、いつの時代からも「時代おくれ」と称されて疎ましいものとでもされてきたのでしょう…

鏡の国の住民たち

図書館で借りた筑摩世界文学大系の『ボルヘス ナボコフ』の付録で清水徹氏の「鏡の国の住民たち--ナボコフとボルヘス」が気に入ったので少々抜粋を ナボコフとボルヘスはともに鏡の国の住民である。 ナボコフの住む鏡の国の特徴は、自同律の崩壊した世界とい…

はじめての大岡昇平

図書館に行ったら行ったでまたあれこれ借りてきてしまう。大好きな清水某氏のすすめに従い初めての大岡昇平。いきなり自伝に手を出すのは気が引けて、文庫がいいから『武蔵野夫人』を。 この人の日本語結構好きかも。それよりも、核心に早く近付きたいのに平…

運ばれ中

『読書のユートピア』清水徹著(1977) 読書の開示するユートピア=どこにもない空間、そこに交錯する時間と夢とエロス。大岡昇平、吉田健一等の作品を通して、その構造を緻密に読み、文学的時間の特性を尖鋭な方法意識で問う 文学における<時間>とは何か 帯…

読書のユートピア

『読書のユートピア』(清水徹 著)を読み始めました。届いてすぐ、少しがっかりしてしまって書棚にしまってあったのですが、読み始めてみるとそこは清水氏のこと、とても楽しみな感じになってきました。 ただしどのような方向に論が進むのかさっぱりわからな…

『ガレッティ先生失言録』 池内紀 訳

最近、どうも考えがまとまらず、あれもこれも中途半端で形になりそうもなく、しかし土日を挟んで来週も少し忙しいので何かしら、と書棚に近付くと「先生」が! 「その名前が失言の代名詞になるにいたった」先生・・ Johann Georg August Galletti(1750-1828…

『ピサネロ装飾論』 杉本秀太郎

杉本秀太郎氏は京都生まれのフランス文学者。京都最大規模の町屋建築である杉本家の当主である。 京都に生まれ、戦争を経験し、フランスに留学した氏が書き留めた『洛中生息』の色合いをどう表現したら良いだろう。うしなわれた時、変わりゆく街、京都を書き…

『免疫の意味論』 多田富雄

本との出会い。ある本がある本へ誘う。そのパターンが多いが、ともすると同じような文脈のなかで軌道をぐるぐると廻るようなことにもなりがちである。 こちらを是非読みたいと思ったのはtriportさんのブログ記事「中心と境界」を読んだからだった。 多田氏は…

免疫の本

「変容する自己に言及しながら自己組織化をしてゆくような動的システム」 「変容しつつある自己に言及することによって先に進む自己組織化の過程」 「偶然を積極的に自己組織化のために取り込む」 「超システムの概念は、言語の生成過程、資本主義化での大都…

列車 ミニマル 反復

スティーヴ・ライヒのDIFFERENT TRAINS購入。 ミシェル・ビュトールの『心変わり』を読み終えた瞬間に、この曲が目の前に現れたときには、驚いた。 驚くにはあたらないだろうか? 『心変わり』パリからローマへ至る列車の旅、思考が反復する旅、妻のいるパリ…

ミシェル・ビュトール 『即興演奏』

『時間割』も入手済みだが、こちらを先に読んでしまった。 図書館から借りたので、優先順位が先になったのだ。 副題に「ビュトール自らを語る」とある。書かれたものではなく、語られたものなのだ。 ジュネーヴ大学での講義−引用のための本を持参するくらい…

読了 『心変わり』 ミシェル・ビュトール

物語を運ぶ鉄の箱、パリからローマへと至る列車を作者は「思索装置」と呼んだ。 意識は、思索は遂に必然を知ることとなる。 <神話としてのローマというこの巨大な対象をきみのまなざしの下で歴史的空間のなかで回転させてみようと試みる>P.375 <いまのま…

LA MODIFICATION

まだ読んでいるこの本。http://d.hatena.ne.jp/petersham/20100419 久しぶりに紀伊国屋で買った本は、白い皮のカバーにまだ包まれている。 間に何冊もはさみながら、私の真ん中にいつまでも居座ろうとしている、読み終わるのを先へ、先へと延ばしたがるかの…

ファンタジー娘の美本たち

文庫 新版 指輪物語 全9巻セット作者: J.R.R.トールキン,瀬田貞二,田中明子出版社/メーカー: 評論社発売日: 1997/02/01メディア: 文庫 クリック: 24回この商品を含むブログ (69件) を見るThe Lord of the Rings: The Fellowship of the Ring作者: J. R. R. T…

ジョルジュ・バタイユ 『聖なる神 三部作』

既に読了、感想不能。 「第一部 マダム・エドワルダ」「第二部 わが母」「第三部 シャルロット・ダンジェヴィル」から成る。聖なる神―三部作 (ジョルジュ・バタイユ著作集)作者: ジョルジュバタイユ,Georges Bataille,生田耕作出版社/メーカー: 二見書房発売…

天晴 冷泉家

この展覧会には、行くべきだった。 「冷泉家王朝の歌守展」芸術新潮 2009年 11月号 [雑誌]出版社/メーカー: 新潮社発売日: 2009/10/24メディア: 雑誌 クリック: 3回この商品を含むブログ (8件) を見る最近とかく腰が重すぎるようだ。 対照的にして興味深い親…

『三島由紀夫・昭和の迷宮』 出口裕弘

三島由紀夫・昭和の迷宮作者: 出口裕弘出版社/メーカー: 新潮社発売日: 2002/10メディア: 単行本この商品を含むブログ (4件) を見る愛情は、多くのことを隠す。三島由紀夫を語るには薄すぎるほどの本。書いておくべき、ほんの少しのこと。 例えば、『葉隠』…

三島由紀夫 『仮面の告白』

読了。 前半、後半の展開が、読む者を困惑させる。 前半が真実ならば、後半の展開は不可能なはず。 園子に、いったい何が課せられているのか? そこで、おとぎ話として読んでみる。 主人公「私」が物語前半で告白するのは、呪われた自己、「美女と野獣」の野…

『作家の家』

窓は光を切り取り、作家の部屋を照らす。 ある日は目が眩むほどの白い光をもたらし、またある日は梢を揺らす風が光を攪拌する。 写真が素晴らしい。光の採り入れ方、部屋を見つめる眼はフェルメールに似ているかもしれない。作家の家―創作の現場を訪ねて作者…

モラヴィア 『不機嫌な作家』

政治評論家ネッロ・アイエッロ氏による対談集。図書館で借りたもの。 聞き手が政治評論家なので、政治的な見解についての部分が多い。ファシズムの時代をくぐり抜けたのだから当然といえば当然である。 常に自身の立場を毅然と保つ姿勢は見事。 あとは、評論…