『作家の家』

窓は光を切り取り、作家の部屋を照らす。
ある日は目が眩むほどの白い光をもたらし、またある日は梢を揺らす風が光を攪拌する。
写真が素晴らしい。光の採り入れ方、部屋を見つめる眼はフェルメールに似ているかもしれない。

作家の家―創作の現場を訪ねて

作家の家―創作の現場を訪ねて

いまにもそこを作家が横切るのではないか、その椅子をたった今立ち去ったばかり、とでもいうような空気を写真に閉じ込めている。
ジャン・コクトーの家。壁の黒板に無造作にピンで留められた写真、その写真のなかで、コクトーは額縁に入った写真のピカソと見詰め合う。ジャン・マレーの顔。生きたギリシャ彫刻。家の中に数々の首が置かれている。白大理石の少年。ガラスケースに入れられた古代ギリシャの首。黒大理石の顔に白大理石の頭巾をまとった首。そしてスフィンクス。これも首の一族だろう。四肢はライオン、上体は貴婦人。
アルベルト・モラヴィアの家。パゾリーニと共に共同で買った土地に建てた「2つの家族の家」なのだという。キューブ状の簡素な家。海と、太陽と、風のための家。モラヴィアはタイプライターに渾身の力で襲いかかり、タイプライターを次から次へと壊してしまったという。写真家は、白いカーテンをふくらます風を写真におさめた。「時折、彼は視線を上げて、風にふくらんだインド綿のカーテンをぼーっと目で追っていました。」(モラヴィアの最後の女性カルメン
作家たちは、「何か」を見つめた。それがやがて姿を顕し、言葉が降りてくる。