読了 『心変わり』 ミシェル・ビュトール

物語を運ぶ鉄の箱、パリからローマへと至る列車を作者は「思索装置」と呼んだ。
意識は、思索は遂に必然を知ることとなる。


<神話としてのローマというこの巨大な対象をきみのまなざしの下で歴史的空間のなかで回転させてみようと試みる>P.375
<いまのままのかたちでは実行してみたところで裏切られるばかりだろうから、それがすこしずつ色褪せ、あるいはかたちが変わってしまってからがいいだろう。>P.388
<窓の向こう側に姿を見せる、満月。><窓の向こうには上弦の月が見え、>p.391 月の姿で、日付の違いを読む。
<きみがアニェスと名づけている女も眠りの底から浮かびあがり、夫の拳を手に取り、月の光で時刻を読もうとする。>P.413 これは月の光を光として使い、時計を読む。
そしてまた、ごく僅かのユーモアを作者は「きみ」に発動させさえするので、私はくすりと笑うこともある。しかしそのユーモアは、ごく僅かなものだ。私の好むものばかりで書かれた小説を、ひと月がかりで読み終えたいま、少しのメランコリーをおぼえる。
「きみたち」はあきらかにしようとはしない、神とのことについて。そのことは誰かに、別の小説に委ねるつもりなのだ。
『LA MODIFICATION』の意味するところは、この小説では終わらない、まだなされていないことを指すのだろうか。

心変わり (岩波文庫)

心変わり (岩波文庫)