『ガレッティ先生失言録』 池内紀 訳

最近、どうも考えがまとまらず、あれもこれも中途半端で形になりそうもなく、しかし土日を挟んで来週も少し忙しいので何かしら、と書棚に近付くと「先生」が!
「その名前が失言の代名詞になるにいたった」先生・・
Johann Georg August Galletti(1750-1828)
いえ、本当は違うのを目指していたはずなのですが、手はこちらを選んだのでした。
池内紀氏が著すものは飄々としたなかにも本質を突くものがあり好きなのですが、こちらはその本質にも含まれそうな失言、ユーモア、言葉に対する愛情をあつめた小さな1冊。

ゴータ・ギムナージウムの教授として40年間孜々として教務にはげみ、宮廷顧問官に任じられ、隠遁生活に入ってからも研鑽努力をおこたらず、78年の充実した生涯を終えた・・伝わるところによると、まさに「手にペンを握ったまま」あの世へと旅立った。
ゴータの町は地理的にはゲーテのいたワイマールと町と隣り合わせにあり、時代的にもぴたりとドイツ古典主義成立と重なっている。ゲーテの名言とガレッティの失言と――いやいや、はたしてそうだろうか。そもそも、どちらがどうなのか、わかったものではないのではなかろうか。(あとがきより)

1.この地上に現れた最初の人類は住居をもたなかった。ために、一人残らず、けものに食われてしまった。
2.ただ一人を除いて、人類はことごとく大洪水に呑まれた。ただ一人、つまり、デウカリオンである。並びに女房のピュラだ。
3.神は不死である。かかるがゆえに、死なない。
42.ダイオタロスはダイオタロスの父の子だった。
43.レオニダスはミュシアを手に入れた。おっと、まてまて、レオニダスは、はたして何を手に入れたのだったか?そうそう、あれはとっくの昔に死んでいる。
52.アレキサンダー大王は、その死に先立つこと21年前に毒殺された。
202.いいですか。これがいわゆる破格構文というものです。注意して訳してごらんなさい、ずいぶん、破れ目があるでしょう。
506.鉄からとりわけ何がつくられるか?そう、陶器だ!
730.勝つための方法は2つしかない、勝つか負けるかだ。
732.こうであったとは、そうではなかったことである。


池内氏は言う。

ガレッティ先生においては、知識のあいまの、それ自体はなんでもない言葉が、一つ一つ、それぞれの顔を持っている。その顔を、突然、いかに寄せ合い、いかにそむけあったか。
表現できないとは、正確には、表現させないものと関係しているに相違ない。言葉のあいだに揺れていて、言葉のお定まりの鋳型に入りたがらない何かとかかわっている。その何かを予言させ、感じさせるのが詩人のつとめであるとすれば、ガレッティ先生は、まさしく詩人の一人であった。(あとがきより)

いまいちど詩の力を思い起こしたい。
笑い、涙、あるいは美に届く近道は詩にほかならないのではないだろうか。(強引?)

象は世界最大の昆虫である―ガレッティ先生失言録

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ガレッティ先生失言録 (1980年)

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今、眠いです・・授業中の睡魔と闘うかのような・・胡蝶の夢