ロラン・バルト 『喪の日記』

ロラン・バルト 喪の日記

ロラン・バルト 喪の日記

小さなカードに書かれ、日付順に並べられ、五つの部分に分けられていた「喪の日記」。
一枚のカードにつき一ページ、二行だけの日もあれば、ページ半分、長くてもページの七割を埋めるくらいの、二年に亘る亡き母への喪の季節。
ページの余白を漂う溜め息、涙、その合い間をほんのすこし写し取る喪の時間。

もしかしたら、たぶんこれらのメモには、たいせつなことが少しは書かれているのではないだろうか?

わたしのコートはとても陰気なので、いつもつけていた黒や灰色のスカーフをすると、マムが見たら耐えられなかっただろうと思う。もう少し色のあるものにしなさい、というマムの声が聞こえてくる。だから、はじめて色のついた(タータンチェックの)スカーフをつける。

そして思う。愛するひとを苦しめないでいられるとマムが教えてくれた、と。

「美は、わたしたちが想像しているものの最上級ではないし、わたしたちの眼前にある抽象的な類型のようなものでもない。それどころか、新しい型なのであり、現実がわたしたちに見せることでは想像できないものである。」プルースト

〔おなじように言いたい。わたしの悲しみは、苦痛や遺棄などの最上級ではないし、抽象的な典型のようなものでもない。それどころか、新しい型なのであり・・・・。〕

わたしは--闇のなかで--揺れ動いている。ときおり、断続的に、散発的なふうにしか--発作の起こる間隔が短いにせよ--わたしは不幸ではないのだという事実確認(だがほんとうに正しいのか?)と、結局のところは、実は、マムの死以来、たえず、いつも、わたしは不幸なのだという確信とのあいだで、揺れ動いている。

〔たぶんもう書いたことだが〕
わたしの悲しみは説明できないが、それでも語ることはできる。