川端康成 視線と筆致

ドガ展への行き帰りにバッグに忍ばせた川端康成の『愛する人達』。ドガの絵画との相性、川端康成の視線と筆致の滑らかさはたまらない。あのぎょろりとした眼は女を見つめる。娘を見つめる。少女を見つめる。ひとりでに女は語りだす。少女は動きはじめる。男はそれを書き留める。

女の子は、絵本を投げ出して、風呂敷をほどいてみたり、結んでみたりしていた。その手つきがたどたどしい。くすんだ色の平凡な風呂敷が、変に可愛いものに見えた。風呂敷のなかには、千代紙ばりの小箱が入っていた。

そう思うと、牧田の前の女の子が、なにかあわれに神聖なものに見えてくる。
「西洋人の子供って、どうしてこんなに可愛いんでしょう。顔なんかちっともきれいじゃないのに...。」
その子は窪んだ眼が青く、額や頬骨の形は悪いし、唇は小憎らしく突き出ていた。しかし、体つきが天使のようにやわらかい感じだった。附け根まで見える脚は、美しく光っていた。
                             「燕の童女

掌の小説集『愛する人達』に集められた九編の小さな小説は昭和15年に『婦人公論』に連載されたもの。女性たちに向けて書かれた掌の小説。ひとつの小さな家庭に入ったばかりの、あるいは入ろうとする、あるいは小さい子供を育てているかもしれない女たちへの眼差しは優しくもどこか淋しげで、筆致は滑らかで、小さなオルゴールの小箱のようでもある。

愛する人達 (新潮文庫)

愛する人達 (新潮文庫)