カプリ島のそらの青うみの色 サン・ミケーレ荘

カプリ島を訪れたのは何度目かのイタリア旅行。ナポリに一泊し、船でソレントへ移動し宿をとり、ソレント港からカプリ島へ渡って。多くの人がさらに小舟に乗り換え「青の洞窟」へと進むのに背を向け、ブランド店が軒を連ねる島の繁華街を抜け、海の見える道を、数々の別荘が海を見下ろす小路をもっと進み、漸く視界は開け、絶景を前にサンドウィッチを頬張る。
カプリの海の青は至福の色。こんなに青いなら、もうどうでもいいという気分にさえなる究極の色。海から突き出た小島の白くごつごつした岩肌。全ては神の、天からの賜物なのだから我々はただ呆れたように感嘆するばかり。
さらに島を分け入って進むうち、ほとんど山登りとなり、斜面を登る、下るを幾度か繰り返す。「見えた見えた」と夫の声。
ゴダールの映画「軽蔑」の舞台となったマラパルテ荘が木立ちの奥に垣間見られる。海に突き出した赤い建物。その屋上から海にぽーんと飛び込みたくなるような。(飛び込みは苦手)
良いものを見られたので御機嫌で進むけれどいいかげん息も切れてきて。分かれ道の右手を行くと滝がみられるというので男子の小さいほうが行くというので大きいほうもついて行く。女子2名は暫し休憩。
そこから先の記憶はないけれど街に戻ったようなので冷たいレモネードで休憩。
そこから小さな乗り合いバスで次なる目的地サン・ミケーレ荘へ。バスの運転の荒いこと、道のせまいこと、絶壁すれすれを行くのでスリル怖い。
精神科医でもあった作家アクセル・ムンテの「サン・ミケーレ物語」の舞台となった場所。凄いトコロ。
此処は天に程近く、鳥は天から降りてくるので、アクセル・ムンテは鳥たちと会話をしたのだという。スウェーデン生まれのアクセル・ムンテは太陽に、天に程近い場所に棲み家を欲した。その憧れはいまもあの場所にそのまま保存されている。
収集された古代遺物、螺旋を模した列柱の幾つか、大理石の欠片、翼のある頭部。そして海に向かって腰をおろし、永遠にその景色を、空を海を夜を太陽が繰り返し昇るのを見続けるのを運命付けられたスフィンクス像。チャペルのテラス先端に据えられたスフィンクス像はわたしたちに背を向けている。その顔を見られるのを拒むように
ただ、夜の闇の中、そして空が仄かに色付くとき、彼女の頬が知らず濡れるのが何の故かはわからない。

サン・ミケーレ物語 (1974年)

サン・ミケーレ物語 (1974年)

この絶版本は手許にない。ムンテ医師の自伝的小説だが、その時代の精神医学の方法やパリ、ローマでの暮らしは大変興味深い。とともに彼の精神の昂揚とサン・ミケーレとの関わりは詩的でもあり超越的でもある。
なかに故郷であるスウェーデンの大地を行く箇所が挿入されるが、その場面はまるで夢のなかを歩くようでもあり、その案内人はムーミンの登場人物にどこか似ている。
闇が光をねがうこと。この小説、あの場所。