ドガ
年の瀬の横浜美術館。年内で終わりのようなので慌ててドガ展へ。冒頭に掲げられた若き日の自画像。呆けたような表情をこちらに向ける。
生涯のテーマの踊り子を描き始めるまでの気のない絵画が並ぶ。ほんの一瞬の瞬間、虚けた瞬間、魂の抜けた瞬間を描こうとしてしまう。無心で顔を上向く女性の顔。
祖父の肖像画。厳格な祖父の表情をよく描いているが、背後に父親の姿、音楽に耳を傾ける無心の表情を描きこんでいるのが面白い。
マネの肖像。家庭でのリラックスする姿だろうか、ソファに姿勢を崩した姿。マネの妻の姿は横向きの半分が切り取られている。
いよいよ踊り子たちが登場すると、画面は躍動しはじめる。少女たち。おもいおもいの無心なポオズ。
《エトワール》の広げた左腕の美しいこと。上を向いた顔は恍惚に目を閉じる。揺れるチュチュは妖精の羽のように軽い。
絹のリボンがもつれ ついで踊り子は倒れた 舞い降りる 小鳥のように
アラ不思議 一吹きすると 喜びと愛が 甦る
夥しい数の湯浴みする裸婦、身体を拭く裸婦の後姿。
私が描くのはただの人間だ。それを我々はいわば鍵穴を通して見るというわけだ。
後ろからの、横からの視線は「ただの人間」を、空っぽな瞬間を捉えようと懸命だ。
《女性の肖像》。黒い衣服、ヴェールを身につけた大人の女性の冷静な表情。しっかりと目を、表情を捉えた作品は珍しい。
一吹きすれば飛ぶような喜び、愛。もつれ、倒れ、追い求め、疲れる...そのなかで、たしかに瞬間は切り取られたのだと。