萬葉集

  日本紀云 朱鳥四年庚寅秋九月天皇紀伊國也
   越勢能山時阿閇皇女御作歌
此也是能 倭尓四手者 我恋流 木路尓有云 名二負勢能山
これやこの やまとにしては あがこふる きぢにありといふ なにおふせのやま
(巻第一 三五)

  幸干吉野宮之時柿本人麻呂作歌
八隅知之 吾大王之 所聞食 天下尓 国者思毛 澤二雖有 山川之 清河内跡 御心乎 吉野之國之 花散相 秋津乃野邊尓 宮柱 太敷座波 百磯城乃 大宮人者 船並て 旦川渡 舟競 夕河渡 此川乃 絶事奈久 此山乃 弥高思良珠 水激 瀧之宮子波 見礼跡不飽可問
やすみしし わがおほきみの きこしめす あめのしたに くにはしも さはにあれども やまかはの きよきかふちと みこころを よしののくにの はなぢらふ あきづののへに みやばしら ふとしきませば ももしきの おほみやひとは ふななめて あさかはわたり ふなぎほひ ゆふかはわたる このかはの たゆることなく このやまの いやたかしらす みなそそく たきのみやこは みれどあかぬかも
(巻第一 三六)
  反歌
雖見飽奴 吉野乃河之 常滑乃 絶事無久 復還見牟
みれどあかぬ よしののかはの とこなめの たゆることなく またかへりみむ
(巻第一 三七)
安見知之 吾大王 神長柄 神佐備世須登 芳野川 多藝津河内尓 高殿乎 高知座而 上立 國見乎為勢婆 畳有 青垣山 山神乃 奉御調等 春部者 花挿頭持 秋立者 黄葉頭刺理 逝副 川之神母 大御食尓 仕奉等 上瀬尓 鵜川乎立 下瀬尓 小網刺渡 山川母 依て奉流 神乃御代鴨
やすみしし わがおほきみ かむながら かむさびせすと よしのがは たぎつかふちに たかどのを たかしりまして のぼりたち くにみをせせば たたなはる あおかきやま やまつみの まつるみつきと はるへには はなかざしもち あきたてば もみちかざせり ゆきそふ かわのかみも おほみけに つかへまつると かみつせに うかはをたち しもつせに さでさしわたす やまかはも よりてつかふる かみのみよかも 
(巻第一 三八)
山川毛 因而奉流 神長柄 多芸津河内尓 船出為加母)
やまかわも よりてつかふる かむながら たぎつかふちに ふなでするかも
(巻第一 三九)

国褒め。春の花、秋のもみぢ、山を褒め、川を褒め、土地を愛する。