「たのしい川べ」舞台

渡英半年後、クリスマスシーズンともなれば、何かお芝居を見に行きたい。毎週土曜日にはガーディアン紙を購入していた。ちょうど朝日新聞の日曜版みたいなもので、冊子がたくさんついてくる。高級紙では左寄り、ともいわれるガーディアン紙はアート、文学などの特集が面白く、私はこの土曜版をたのしみにしていた。英会話は苦手の私も、面白そうな記事なら読んでしまうことは可能である。子供が難しい本を読むような感じで、少々難解な単語が混じっていても大筋がつかめればまあOK、ということで。たしかに英語というのは面白い言語で、特に新聞の見出しは趣向が凝らされていて面白い。今を伝える表現、いい得て妙、という表現が常に試みられていた。そのアートの冊子で、「WIND IN THE WILLOWS」の舞台が紹介されていた。美術担当がアート・アニメーションの鬼才ブラザーズ・クエイ。若き日「ストリート・オブ・クロコダイル」に魅了された私は興奮!夫にチケット入手を依頼する。機械音痴系の私はネットで簡単に予約できることをまだ知らなかった。
当日、お洒落して家族4人でロイヤル・オペラ・ハウスの小ホールへ。クリスマスの頃の華やいだ雰囲気、3世代で来ている家族もいる。ぎりぎりでとれたチケット、一番後ろの席のようだが行ってみると席がない!係員に告げると今からセットするから、とのこと。着脱可能の席を取り付るのをわくわくしながら待っている。私たちが座ったころには満員、立ち見もいるようだ。朗読付きダンスで表現、モグラくん、ネズミくん、アナグマさん、カエルくんのキャラクター設定、衣装、クエイ兄弟の舞台美術、音楽の全てが上質の出来、大人、子供、3世代を満足させる内容だった。「たのしい川べ」が全ての世代に愛されているのを実感した、素敵な1夜だった。
イギリスの財産は文学である。クラシックといわれる文学に命を吹き込み続ける役目を果たすのが舞台。家族で、大切な人と共に、それを体感、共有する、それはとても素敵なことだと知った。
本屋さんにはクラシックの棚と同様にモダン・クラシックの棚もある。新しく生まれる文学から、どれをその棚に加えるのか、クラシックと呼ぶにふさわしいのはどの作品なのか。人々はそれをとても楽しみにしているようである。選ばれた作品は舞台となったり、映画となったり、そしてそれを共有の財産として皆で育てる、大切にする。

The Wind in the Willows (Everyman's Library Children's Classics Series)

The Wind in the Willows (Everyman's Library Children's Classics Series)

英語版はこちらアーサー・ラッカム氏の挿絵、クラシカル!