我輩は亀である

我輩は亀である。
名前はまだない。というか、名前で呼んでもらったことがない。「雷蔵」だとか、「蓬莱」だとか、もう忘れてしまったような風流な名前もたくさんつけてもらったが、呼んでもらったことがない。僕が名前負けしちゃってるってことかな。
とにかく、2年前、だったかな。僕がほんのチビチビだった頃、そのとき僕は自分が何者かもわからないまま、そっくりの仲間たちとともにケースの中に入ってた。のっかったり、のっかられたり、混沌、っていうのかな、そのただなかにいたし、僕はそれに疑問を感じることもなかったよ。
ある日、いつもと同じようにのっかったり、のっかられたり、していると、僕は突然つまみあげられ、小さな、ケーキの箱のようなもの(僕はそれを食べたことはないけれど)にただ一人閉じ込められ、何処かへ運ばれるようだった。用心しいしい運ばれているようで、そんなに揺れはしなかったけれど、たった一人になるのは全くの初めてで、僕はこれからいったいどうなるのか、全く想像もつかなかったが、太らされて喰われるのではないか、とか、小さな頭は不安でいっぱいだったんだ。
そして僕は真新しい、ガラスのケースに入れられた。しろ、あか、みどり、などの砂利がしかれ、よくいえば蓬莱山、といってもいいような、小さな僕がなかに隠れることもでき、上にのぼって「お山の大将俺一人!」とか、キメポーズもできるような、ものもあって、水も透き通っていて、きれいだった。僕は結構、気に入ったんだけど。でも、なんか不安、っていうのか、孤独感を感じてしまって、ふてくされてたな。たった一人でどうすればいいんだろ、みたいな感じで食欲もわかなかった。死んでもいい、みたいな気分も、あった。亀のエサっつうの?あんなの、ちっとも食べたくなかったよ。ただ、時々乾燥海老、くれるんだけど、それがあんまりおいしいんで、我を忘れて、あれだけはむさぼるように食ったな。もっとちょうだい!みたいな感じで。そうすると、もっとくれるから、そればっか食ってた。レプトミンとか、こんなもん食えるか!ってな感じで。