奥行きは奥へ奥へ 円山応挙

三井記念美術館の「円山応挙--空間の創造」展。奥行きの人。

20代の修行期の頃にはいわゆる「眼鏡絵」の制作に携わっていたことが知られる。この頃、京都四条通柳馬場尾張屋中島勘兵衛という玩具商に勤めていた。そこでオランダ渡来の眼鏡絵を見て、宝暦9年(1759年)頃、「四条河原遊涼図」、「石山寺図」、「賀茂競馬図」、「円山座敷図」、「三十三間堂図」など京都風景の眼鏡絵を制作した。眼鏡絵とは、風景などを西洋画の遠近法を応用して描き、これを「覗き眼鏡」という凸レンズを嵌めた箱を通して見ると立体的に見えるというものである。(Wikipediaより)

はじめにこの「眼鏡絵」の展示がある。残念ながら凸レンズは設置されていないため、江戸時代の3Dを楽しむことができないのは少々残念だが、ともかく、応挙という人は奥行きにこだわり続けたことが最後にわかる展示となっている。
日本画はとかく2次元的で、構図の面白さや色彩の対比や季節感で見せるものと思い込んでいたが、江戸中期にこれほど奥行きに執拗にこだわりを見せる作風に面白さを感じた。展示には、玩具商に勤めていたというWikipediaのような説明はないが、この経験が後の作風に影響を与えたとすると面白い。
中国の山水画を手本としたような作品でも、その奥行感は念が入っている。視線が近景から遠景へと運ばれる、そしてもっと遠くを望もうとするその奥行は、画面中央に配される。「迫央構図」
最後の展示室7の「国宝 雪松図屏風」と「重文 松に孔雀図襖」は感動的。
入って右に「松に孔雀図襖」
全面に金箔が貼られ、墨一色で松と孔雀が描かれる。落ち着いた金色は空間を支配する。墨の黒だけで描かれているのにも関わらず、なぜか色彩が感じられる。松の緑、幹のざらざらした色合い、孔雀の鮮やかな色彩は「見える」。
左に展示された「雪松図屏風」
こちらは松に雪が降り積もるさまが描かれている。その雪の白さ。同じく背景は金箔かと思い近く寄ってみると、そうではない。背景は落ち着いた金の色にも似たくすんだ茶で塗られ、松は墨の黒、白い顔料と思われた雪はなんと、塗り残すことで雪の白さを表していた。離れていまいちど全体をみる。松の葉にこんもりとのる雪の白さ。地面を覆う純白の雪は金で照り映える。冷気を感じる。左右に配された松は雪景色を見下ろすように立ち、奥は、雪のあたりはもっと奥へと広がった。雪の中に立っていた。