能 『淡路』

二箇月ぶりの能楽堂。四角く空を空けた中庭に咲く紫の萩、すすきは金色の穂を揺らし、合歓の木も天高く。
狂言は『昆布柿』。
幕間は展示室の《加賀の能楽名品展》を鑑賞。装束の色合いが目に優しい。色数を抑えてある所為か鬱金の地色もあたたかく松の緑も柔らかい。
能『淡路』は伊奘諾伊奘冉の国生みの、国を寿ぎ豊穣を言祝ぐ。

山河草木国土は皆 神の恵みに作り田の
雨土塊をうるほして 千里万里のほかまでも
皆楽しめる時とかや 花に心のあこがるる
水に心の種まきて 雪をもかへす景色かな
雪をもかへす景色かな
然れば開けしあめつちの
伊奘諾と書いては 種蒔くと読み
伊奘冉と書いては 種を収む
種を蒔き 種を収めて苗代の
水うららにて春雨の 天より下れる種蒔きて
叢早稲の秋になるならば 種を収めん神徳
あらありがたの誓ひやな
ありがたの神の誓ひやな
それ天地開闢のむかしより 混沌未分漸くわかれて
清くあきらかなるは天となり 重く濁れるは地となれり
然れば天に五行の神まします 木火土金水これなり
すでに陰陽相わかれて
木火土の精伊奘諾となり
金水の精凝り固まつて伊奘冉と現る
乱れずに 結び定めよ 小夜の手枕の歌の種蒔きし
神とも今は白波の 淡路山を浮橋にて
天の戸を渡り失せにけり
天の戸を渡り失せにけり
海神(わたづみ)の挿頭にさせる白玉の
波もて結へる淡路島 月春の夜ものどかなる
緑の空も澄み渡る 天の浮橋の上にして
八洲の国を求め得し 伊奘諾の神とは我が事なり
ふり下げし矛の滴り露凝りて 一島となりしを
淡路よと 見つけしここぞ浮橋の下ならん
げにこの島の有様東西は海漫々として
南北に雲峯を連ね 宮殿にかかる浮橋を
立ち渡り舞ふ雲の袖 さすは御矛の手風なり引くは
潮の時つ風治まるは波の芦原の 国富み民も豊かに
万歳を謳ふ松の声 千洲の秋津洲
治まる国ぞ久しき
治まる国ぞ久しき            (抄)

後シテ伊奘諾尊の若々しさ漂う神舞...神さまもあの頃は若かった。