不定形

 鬱紅の薔薇のルビイ 絡まる緑エメラルド

「鬱」という文字は悪戯なお庭、つかいみちを探す楽園逍遥。 幾鬱と寝覚めのゆめは儚くて 鬱窓の硝子のそとが小春なら 鬱筆と窓にもくらき星のかげ 鬱墨を置ける掠れは躊躇いを 鬱雲の涙をそらに留めながら 鬱白ははるか彼方を翔ける雲 鬱紺のリボンのシルク…

蝉にはじまり蝉におわる

蝉が漸く夏を巻き始めた それとも巻き戻し始めたのか... 巻き終えた時に夏は終わる 終わる事を知っていて巻いているのだ いつ知るのだろう 蛹のなかで背に翅を拵えながらみる夢のなか(8/1) 螺子の音 皺枯れた 大音響 出し惜しむ 夏い暑を羨むばかりの 静寂…

みずうみ

そのみずうみは擂鉢型 おそろしく深くあおく その水を呑んだものは 龍になるという 伝説の おおきな腕に抱かれ 円いみずうみの中心へ 聲をころして 黒いほどあおく 円く囲まれた みずうみの 水はつめたい

朝の囀り

鳥たちの 静かに喋る囁き 枝は騒ぐしづかに騒ぐ 誰の朝 誰でもないものの いつか視たあさ 飛び出す声 口々に喋る嘴 風に踊る急旋回 梢のうえのちいさな部屋に飛びこんで うたうように笑うように 太陽を覆う緞帳 半透明の

アルハンブラ 夜

アルハンブラ 闇のなかをいく 白い柱の華奢なこと 水の音 大人しいライオン 漆喰の天井 陰影を 奥行きをなぞる どれくらいの時が流れたのか... 去るべき時刻 箱庭からの

きのうの真夏

高澄空白透明半月架眩輝陽天翔鳥声限鳴蝉無数夏虫大合唱百日紅木漏日揺暖風心地良開窓真夏幸 色は溢れ しあわせに似た 真夏かな 万葉の時代、初めて漢字を手に入れた時の感覚を思い出そうとしてみました。漢字の羅列。物や事、心や思いを形で表せるというそ…

むかしむかしあるところで

あるものは芝刈りに あるものは炎天下の活動に あるものはまだ夢の中 あるものは例えば時をきりとれるならば と夢想を そんな時は映画を観れば良い 殆ど眠りに等しい時を とりだすように

迷路にも似たゼンマイ仕掛けを キリキリと巻いて 見えぬように そっと そしてまた ゆっくりと緩むとき 不思議な扉を 見つけても 飛び出して行かぬように またキリキリと巻いて

まるで絵画のような

まるで絵画のような森の朝 微動さえしない そよがず動かず コントラストは 光の 表と 裏の 色 美の姿

ぎらぎらと

一日の始まりを告げたときから 涼しい顔でぎらぎらと トリナクリア シチリアの それは貴方のまたの名でしたね もうすでに高く昇って わたしたちを照らす 貴方のお顔をもういちど 確かめてみたいけれど あまりに眩しいので パラソルの麻布を透かして 少しだけ…

鳩居堂の 白檀の 透かしの栞 佳いかほり

六五七五 不定形