京都旅 旅の終わり

茶店の店主に教わった通り、橘橋を渡り、中ノ島を歩く。
土地の人が自転車の籠にうさぎを入れて散歩している。宇治橋から見えた赤い朝霧橋を渡る。平安の昔から変わらぬ山並み、川の流れを眺める。もう、宇治上神社?と思ったのは宇治神社。もう少し奥に行くと宇治上神社。村の鎮守の杜、といった感の神社であるが、日本最古の神社建築で世界遺産。そうと知らなければ見過ごしてしまいそうなさりげない存在である。仁徳天皇皇位を譲り、自ら命を絶った菟道稚郎子らが祀られているのだという。日本紀の式部、とも呼ばれるほど歴史に造詣の深かった紫式部、このような土地に伝わる伝説や、日々宮中で見聞きする出来事、噂、そういうものを物語に編んでいったのか。それにしても誰も幸せになることのない物語。美しく品格のある女性、素直で賢い女性、誰もが憧れる貴公子、誠実な貴公子、可愛らしく可憐な姫君、八方尽くしても、誰もが傷を負って生き、そして死んでいく、それが昔も今も変わらぬ人の世だと。
さわらびの道はひっそりとしている。「昔々、美しい姫君が人知れず隠れ住んでおりました」というのが信じられるような、隠れ里の風情。
そろそろ、旅も終わり。京都駅に向かい、荷物をピックアップし、夢の超特急で皆、現実の世界へと帰っていかなければ。
茶店の店主の後ろの壁にはたくさんのキープ茶箱が並んでいた。「また来ます」という誓いを茶葉と一緒に忍ばせて。