倉橋由美子再読

聖少女 (新潮文庫)

聖少女 (新潮文庫)

倉橋由美子を再読しようという気分。
若い頃、今の半分位の年齢のときに読んだ「聖少女」をもう1度読み返してみた。私のは数年前に古本店で手に入れた赤い函入り村上芳正氏装丁のもの。裏に倉橋由美子のサインいり。はっきりと憶えている部分、ありありと、昨日のことのように感じられる描写。全く憶えていない部分、脳の自動制御が働いたのか、手に負えない部分は記憶に留めることはないらしい。読後感は以前読んだときと殆ど変わらない。
毒がたっぷりと贅沢に盛られた小説。
松岡正剛氏は大学生の頃に読み、若い女流作家がこのような小説を書くことに狼狽した、と千夜千冊で述べておられるが、
http://www.isis.ne.jp/mnn/senya/senya1040.html
私にとっては、このような小説を母親とそう変わらない世代の人が書いたことに驚いたのである(倉橋由美子は昭和10年生れ)。もしこの小説が私と同世代の作家が書いたのだとしたら、嫉妬からくる拒否反応のために、他の作品を読み進めることはできなかったかもしれない。もっとも、私が嫉妬する権利など芥子粒ほども持ち合わせてはいないが。とにかく、母親ほどの世代の作家であったために私は安心して尊敬し、ほかの作品も好んで読んだ。

「聖少女」という決定的な題目のもと、倉橋由美子がこころみたこと。それは名人が最高の女面を打ち出すことに似てはいないでしょうか。