『カポディモンテ美術館展』 国立西洋美術館

平日の閉館前の時刻ということもあり、たいへん空いていて、絵画と向き合うことができた。

パルミジャニーノ《貴婦人の肖像(アンテア)》1535-37年

ヴァザーリは、パルミジャニーノの画才を讃えながら、錬金術のために時を無駄にしたことを残念に思っている。若くしてその才を認められ、ローマ法王庁一同をも驚愕させたという。そして巷ではラファエロの魂がパルミジャニーノの体に乗り移ったといわれるほど、超人的な技術、柔らかで優しい物腰はラファエロそっくりに見えた。実際彼はたいそう美男子で、天使といってよいくらい人間離れした容貌の持ち主であったという。(『続ルネサンス画人伝(白水社)』より)
加えてこうも言っている。

パルミジャニーノは童子の顔を描く時にいつも、実に生き生きとしたあどけなさをこめたが、この表情から子供が普通持っている、ある鋭敏な、あるいは悪賢い気質というものが伝わってくる。

これがパルミジャニーノの本性かもしれない。

下絵をスケッチした聖母像が一枚、これはボローニャでアレッツォ人のジョルジョ・ヴァザーリが後に買い取り、自分で建てたアレッツォの新居に置いてある。

このようにヴァザーリは自身の悪戯心を時折垣間見せる。
そしてこの絵画。世界で最も美しい肖像画のひとつに数えられるという。貴婦人、あるいは高級娼婦、という解説を見ただけでそれを観る女性にはある困難が強いられる。が、一方男性にとってはこれほど都合の良いものはないというふうに、賞賛を惜しまない。ここに描きこまれているものはそんなに都合の良いものでしょうか。
彼女の眼、黒目がちの(殆ど大きすぎるほどの)瞳がねがうものとは・・
いくつかの気になる点を残したまま美術館を後にしたのでしたが。改めて見てみると、まず向かって左、彼女の右腕の大きすぎること、手袋で覆われた手も大きすぎはしないでしょうか。これは彼女を所有しようとする男性の腕が描きこまれているものと想像してみる。抱きかかえるように。肩から掛けられたテンの頭部、その歯は男性の(?)手袋を噛んでいる。捕まえられたものが掴まえている。とする。
そして彼女の左手、肌も露な左手は、首から掛けられた鎖に触れている。鎖が所有を象徴するのなら、その鎖に触れることで、その支配、被支配を回転させようとする意思を読みとる、と言ったら・・。女性が男性を飲み込んでしまうとしたらそこで美は失われてしまう。
彼女がねがうもの、それは愛にほかならない。たったひとつの
無表情とも見える黒い瞳は問うている。
「あなたは私を愛しつくすことができるか」

続 ルネサンス画人伝

続 ルネサンス画人伝