能
舞ひいでたる狂女
きらびやかに舞ひ狂ふ女ひとり
さても心をいれて狂へば
春の日に
くさぐさの想ひぞ高まる
舞ひいでたる女ひとり
さても心をいれて狂へば
顔のもちよう俯かず仰がず
袖のながきもの着て手先など見せず
弱々としめし帯
持ちさだめずして持ちたる扇
たをやかなる腰膝
そのきらびやかなる舞い様
いくかへり
咲き散る花を眺めし女に似たるかな
舞ひいでたる狂女
太鼓 大鼓 小鼓 笛の音にそひ
さても心をいれて狂へば
そのきらびやかなる姿
花の盛りと解きほぐす乱髪
きらめく秋の陽に散りて
虚空はるけく飛翔しさる
くさぐさの想ひぞ充つる三月の能楽堂
舞ひいでたる狂女ひとり
さても心をいれて狂へば
鼓の音冴え 笛の音 幽けく消えて行く
- 作者: 観世栄夫
- 出版社/メーカー: 作品社
- 発売日: 1990/01/01
- メディア: 単行本
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