夏の京都--極相の森から水の聖地へ

はじめての京都夫婦旅。
叡電に乗って鞍馬山から貴船へ至る小登山コース。に備えホテルでぺたんこのサンダルに履き替える。美味なる鯖寿司をいただき、出町ふたばで豆餅を包んでもらい単線で北の方角へ。峻険なる山の隙間に切り込んで行く鉄道、緑に狭く包まれて行く。ケーブルカーに乗れば1時間の山歩き、乗らなければ1時間半と窓口で聞き、すこしだけ楽なほうを選択。ケーブルカーの待合室には揃いの団扇を手にした初老の男女十名が談笑している、同窓会だろうか。この暑いのに山登りを試みる猛き者は老いに差し掛かった健康なひとびとと奇特な若いカップル、一人旅の若いものだけ。急なケーブルカーが一等怖い、太いロープ一本で吊り上げられて行く。登りきった境内奥の藤棚の下で豆餅と冷たい緑茶が美味しい。
山の空気、登る道、剥きだしの山肌が緑青色、鞍馬青とか呼ぶのだったか、赤褐色に色づく鉄分を含んだ岩を何と呼ぶのだったか...山道に樹木の根が網の目のように顕れでる。「極相の森」の表示。陰樹は陽樹を駆逐し、遂には陰樹ばかりとなり果てて安定する、その状態に至った林を極相林と呼ぶという。

龍のようにうねるのは何の樹木だろう、のたうつ龍の木が雨を降らせるのだろうか。梅雨明けの山に人の気配はまばら、外国人のほうが多いくらい、「コンニチハ」「こんにちは。」挨拶を交換する。下りに入ると目的地は近いだろうか、一本歯の下駄で山道を駆け抜けた天狗たちの気配を想いながら、川を流れ下る豊富な水音が近づいてくる。貴船の里に出ると川床を延べた緋毛氈の下を水がとうとうと、轟々と流れくだってゆく。赤い灯篭の貴船神社若い女の子が多い、七夕の笹の葉に色とりどりの短冊、思い思いの願いが風にゆれる。水も大地も清らかに、生きとし生けるものも健やかに、手を合わせる。

夕食の前にシャワーと着替えをしたいから奥の院までは足を伸ばさない。昔の人とおなじ苦労はできないけれど汗して至る水の聖地の有難さ。水の流れる方向へ下る車輌に乗り込む人人人。席に半分ずつ腰掛けてうとうとと、まだ陽は長い。