京都旅--またいつか

気に入りの場処にはまた行きたい、何度でも。
蝉の声が優しい、晴れるだろうか。身支度を整えて最終日、荷物も纏め直ぐに出掛けられるように、朝食をゆっくりとってからホテル隣の三十三間堂へ一番乗り。懐かしい薫り漂う堂内にお経の声が響く。ずらり居並ぶ千躰の十一面千手観音像の行列。真横から覗く直線、斜線、直交する線と後光の円環。歩きながらひとりまたひとり、お貌の造作の違いを見分けながら、整然と並ぶ緯線と斜線が交差しずれてゆく。後光を頂いた眩い光りの束。眠るような目元、唇を固く引き結んだ頑なな口許、ふっくらとした曖昧な顔、顎をこころもち上げた顔、瞬きの途中、胸の前で合掌し、腹の前でひとつの眼を捧げ持つ。手に手に数々の品々を一つ一つ沢山持って。中央の観音様、思いの外の若いお貌で堂々と座し、生きとし生けるものを願う真言、お経の声を間近に聞いて、ご真影とお香も頂戴する。
と、この人は?前を真直ぐに見つめるお貌に出逢う。作者名と番号の札が付いている。創建当時から伝えられた限りある数の一体のようだ。落ち着いた顔、千手の腕も伸びやかな、また会いたい人。
二十八部衆のひとり、琵琶弾く摩喉羅の五つの目は何を視るだろう。