LONDON四日目午後の部

三時半を回り、そろそろ行きましょうか?Nightingale Lane、Petersham Hotelに行く為だけの小さな坂道を降りて。レストランはさほど混みあっていない。川の見える窓側の席。陽射しがつよくなかなかあたたかだが涼しいほど冷房するのをこの国の人は好まない。だって、夏の太陽は素晴らしいから。
運ばれてきました。

下の段のサンドウィッチから...きゅうりのサンドウィッチが上品なものとされているらしい、よくわからないけど とにかくそうらしいのよ。イギリスは硬水だから紅茶の苦味を吸収し(たぶん)、全然苦くならないの。でも、女同士の旅もいいわね。たっぷりのクロッテッド・クリームを半分に割ったスコーンにのせて、苺ジャムものせて...クロッテッド・クリーム大好き、こくがあって甘くなくて、イギリスだと全然高くないんだから。川に反射する光が堪らなく眩しい。これ半分こする?全ては食べきれない。
ゆったりとした時間はとりとめもなく、いつのまにか二時間が経過していた。
夜のコヴェント・ガーデンは華やいだ雰囲気、劇場に入る前の特別な気分。

HeadspaceDanceによるThree & Four Quarters
http://www.headspacedance.com/work/three-four-quarters/
チケット・オフィスで予約していたカードを渡すと封筒に入ったチケットを手渡される。いつか家族でWind in the Willowsの朗読つきダンスを観た小さなホール。開場まで、飲み物を飲みながら恋人や夫婦、仲間が集まり始める。お洒落をしたおにーさんやおねえさんたち。週末の夜。
サイドの席を予約したのだがStandingと書いてある。(そういえばすごく安かったわね、もしかして?)
開場すると三階のサイドには席があり、二階に下りていくと椅子はなく...番号が小さくふってある、ここ?狭くはないし一番前だし座れないけどこうして寄りかかって楽に見られそうだし、いいんじゃない?
表現すること、表現への葛藤、表現されるものの言語、ダンスもまた言語の一形式である。シリアスとユーモアを併せ持つ英国お得意の方法。ロンドンらしさを体感できて楽しかった。

http://www.guardian.co.uk/stage/2012/sep/16/three-four-quarters-headspace-reviewガーディアン紙の記事
翌日は早起きしてパリへ。

LONDON四日目午前の部

ロンドンで過ごす最後の日。
夜にROHのリンベリー・スタジオでダンスを観る予定、その前にピーターシャム・ホテルでアフタヌーン・ティする予定、その前の時間はどうする?ロンドンには出ずに近場で、Kew Gardensに行ってもいいけれど。キングストンに行きたいな、キングストンにはよく遊びに行ったから、即決定。
変わらぬ景色を眺めながら坂を下って...意外や連日の好天。駅前のPAULで朝食にカフェ・オレとクロワッサンをいただいて、向いのバス停から65番のバスを待つ。
このバス停いつも使ってたんだ、冬なんか朝でも暗くって。と娘。小学校の間は行きも帰りも親の送り迎えは必須だがセカンダリーからは子ども達は初めて親と離れて外出するようになる。イギリスの冬は日照時間が短い。まだ暗いなかを出て行く寒々とした朝を思い出す。
二階席に座ると決めている。一番前に座りたいな、と娘。65番がやってきた。オイスターをタッチして二階への階段を手摺りに掴まりのぼると結構混んでいる。最前列は満席、並んで座れる席に座る。リッチモンド・パーク脇の鬱蒼とした緑のなかを走って行く。この道は馬に乗った警官(警官を乗せた馬)が歩いていることもある。Petershamという地域を通って行く。湾曲した道は狭く両側を煉瓦塀が囲み丸窓のある家や庭を飾る花が見える。Ham(村の意味)という地域のグリーンを通って行く。チューダー調の<小さなおうち>にはDentistの看板、歯医者さんらしい。間もなくKingstonに着く。長過ぎも短過ぎもしないこのバスの旅が好きだった。
アンティーク店。迷路然とした小部屋から小部屋に様々な時代のものが一見雑然とぎっしりと宝箱よろしく詰まった店内の品々にコメントしながら回る。
ベントールズ・センター。海外はキッチン売り場が楽しい。ル・クルーゼのマグと、友だちへのお土産にナプキン・ペーパー、女の子はちょっとした紙製品が好きだし柄や色遣いが洒落ていて...わたしも家用に2,3選ぶ。お昼をしっかり食べてしまうとアフタヌーンティーに食べられなくなるから小腹を慰めるものと夜に小腹を慰めるものを調達してホテルに一旦帰りましょう。

帰りのバスで二階に行くと一番前が空いている。嬉々として座ると前面の大きなガラスが結構汚れていて...苦笑。
降りるバス停のひとつ手前でボタンを押してしまい降りることに。あそことあそこの間にバス停があることを忘れていた。そういえば、旧式のロンドンバスは車内に白い紐状のものが巡らしてあって、それを引くと運転手さんのところの紐についている鐘がちりんちりんと鳴るという物理的方式だった。二階までちゃんと巡らしてあった(当たり前だけど)。
ホテルに帰り着替えをし、翌日は移動だから荷物をだいたい纏めて...

LONDON三日目午後の部

お昼は簡単に済ませて次はクィーンズ・ギャラリーにて開催されているレオナルド・ダ・ヴィンチの手になる解剖図展に向う。
セント・ジェイムズズ・パークの駅で降り、出口はどちらから?と表示に目を留めた瞬間、「どちらに行きたいのですか?」と英国紳士。咄嗟に答えやすいようにと気を回し「バッキンガム・パレスに行きたいのです。」「バッキンガム・パレス?あちらの出口からおいでなさい。」と親切に応答される。ありがとうとにこやかに別れたものの、わたし、バッキンガム・パレスに行きたいんじゃないの、クイーンズ・ギャラリーのダ・ヴィンチの解剖図を見に行きたいのよと娘に訴えかける。凡庸な観光地で答えてしまった自分に悔しがる自分が愚かで莫迦みたい。親切に親切で答える悪い例。

クイーンズ・ギャラリーのチケットは学生割引があるようだ。娘が私は学生ですが今日は学生証を持っていないのです、などと、チケットを買う。セキュリティ・チェックを通り荷物をクロークに預け、化粧室は広々としている。ハンド・ソープを泡立てながら女王様はモルトン・ブラウンをお使いかしら?と無駄口。
展示室はさほど混んでいないがある種の緊張感を感じる。カメラ使用禁止の表示はない...撮っていいの?早速カメラやアイフォンを向ける人達、撮っていいの?

貴重な、レオナルド・ダ・ヴィンチの手稿、精密に描きこまれた細部、鏡文字、両面に描かれた手稿は両面をガラスで挟んだ額縁で展示されている。この時期にロンドンに来て良かった。
もっとデッサンというかメモのような筆致を想像していたが、一枚一枚に込められた「知」への執心に圧倒される。骨を描いたもの、筋肉を描いたもの、神経を描いたもの、輪切りにしたもの、心臓の構造...それぞれがどのように関わり、人体を動かすのか、何が人体を動かすのか、それを自分でたしかめなければならないという気魂。
熊の脚の骨を描いた青い紙に白でハイライトを入れた図も美しい。筋肉の捩れや結ぶような重なりも、関節で繋がった骨格の構造も...人体は美しい。

自然史博物館に部分拡大図が展示されていて驚いたことのあるこちらもせっかくなので載せておきましょう。ダ・ヴィンチにとっては処女懐胎の問題との関わりからも重要な部分かと。

256頁にわたる図録は夫へのお土産に、と。息子にはダミアン・ハーストの髑髏が一回転するぱらぱら絵本。娘はダミアン・ハーストの図録を買いました。バッキンガム・パレス前、横の芝生で一休みしてからグリーン・パークをグリーン・パーク駅まで斜めに突っ切って地下鉄に。ハロッズは...寄らなくていいわね?
夕食はWaitroseでチーズと葡萄、フィッシュケーク、ハム、パンとサラダにデザートを買い込んでホテルのお部屋でいただきました。エコバッグが欲しくて寄ったら楽しくなってそうなりました。

LONDON三日目午前の部

爽やかな朝、変わらぬ景色、川のある風景を駅前まで歩いてPAULで朝食。カフェ・オレにクロワッサン、アーモンド・クロワッサン。
ディストリクト・ラインでブラック・フライアーズまで行きテート・モダーンへ。この駅から行くのは初めてなので娘と二人、地図と地上を見比べる。ミレニアム・ブリッジの下を流れるテムズの川幅は堂々としている。渡るとダミアン・ハーストの巨大な人体模型。

特別展Damien Hirstのチケットをチケット・オフィスで購入し会場へ。娘くらいの学生風情の客で賑わっている。
透明な巨大ケースの中に置かれた牛の頭部、赤黒い液体が流れ、虫(蠅)が飛んでいる。隣には一辺が1mほどの孔の開いた箱。牛の頭部のある空間と箱のある空間は孔のある透明な板で仕切られている。生は死を摂取しながら生を生み、死は生に与えながら死に至る。
ファーマシー、薬の空箱と薬壜が処方された個人別に薬局の戸棚に収納され、並べて展示された作品。薬は病歴や病巣を説明するのだろう。
蝶の飛び交う部屋は暖房され、鉢植えには幼虫、テーブルには煙草の灰皿。絵の具の塗られたパネルに固定された蝶。
生と死の対比が常にあり、生と死は共にあり、死に向うベクトルと生に向うベクトルは共存し、生は死に至るが生は生を生むだろう。
色鮮やかな蝶を規則的に配置してステンドグラス様に仕立てた作品。生の色を留め置く手法は美しいが、これらの蝶は自然に還元されず美の犠牲に供されたものだ。
最後の部屋は白い鳩の飛翔の固定。白い鳩、精霊は何を伝えようとするだろう?

LONDON 二日目

案の定、変な時刻に目覚めてしまい夜を飛ぶ飛行機が鳴り止まないのでベッドから起き出して窓から外を覗く。向いの建物もホテルだろうか、ひと気のないレストランに居並ぶ白いテーブルクロスと椅子が厳かに照らされている。古風な街の丘の上を横切る飛行機は思いのほか間近を飛んで行った。
と、向いのホテルのレストランに、だしぬけに大男が脇から登場し、大窓の上部をガラガラと少しだけ下ろすと両手に持った割り箸様の棒を器用に操りガラスを磨きはじめた。ホテルで働く人の朝は早い夜明け前。やがて白々と夜が明けてくる、お化粧をして身なりを整えて娘を起こし、朝食も運ばれた。
青天、朝はすこし冷えるが気温は27度程度に上がるらしい。変わらぬテムズの景色を眺めながら坂を下りてゆく。ヘロンズ・スクエアを抜けて川沿いに下りてみましょう。
雛壇に並んだベンチ、ぶら下がる鮮やかなペチュニアのバスケット、川に浮かぶ舟舟船、たのしい川べ...
もうお店も開く時刻、ウォーターストーンズで娘は何冊か本を選ぶ、装丁が素敵であれもこれも欲しくなる。靴店で娘に履き心地の良いサンダルが見つかった。
ナショナル・レールでウォータールーへ、ベイカールー・ラインでオクスフォード・サーカスで降りオクスフォード・ストリートをぶらぶらしながらセルフリッジスの脇を奥に入り、ウォレス・コレクションへ。個人の邸宅、コレクションが美術館として開放されているものでこちらも入場無料。豪奢な調度に配された美術品、フラゴナールの「ぶらんこ」やブーシェを観るのに相応しい。グランド・ギャラリーにはティツィアーノの「ペルセウスアンドロメダ」もある。ベラスケスの「扇を持つ貴婦人」に目が留まる。

白い手袋に包まれた手の表情、黒いヴェールと茶の衣装に映える青いリボンの絹の光沢、眼の表情と肌の艶。ポーズする貴婦人のリアリズムが美しい。
ナショナル・ギャラリーや大英博物館などのいとも大きな美術館とはまた違った趣が良い。外に出ると、学生や近くのオフィスで働く若者の昼休みだろうか、前庭のちっぽけな芝生に思い思いに座りランチタイムを寛いでいる。
リージェンツ・パークでランチを広げたいからセルフリッジスでパニーニと飲み物を買い、バスで移動...バス停を探し当てるのに手間取る。広大なリージェンツ・パークの丸い薔薇園クイーン・メアリーズ・ガーデンズが目的地だけれど、お腹も空いたことだしこの辺で座って食べましょうか?

空は青く花壇の花は美しく蜜蜂は熱心に蜜をあつめ芝生は青青として人は憩い、ピクニック最高。
歩いてゆくと、ユニオン・ジャック・ユニオン・ジャック・ユニオン・ジャック...オリンピック、パラリンピックだし、綺麗ねー。

なおも歩いてゆくと...見えてきました、黒と金で塗られた鉄門を入ると丸く囲われた薔薇苑クイーン・メアリーズ・ガーデンズ。

夏も最後の輝き、薔薇の美しい時間も終りはじめようとする季節も庭の美しさに終りはない。
もう一箇所行くつもりではあったのだけれど...日はまだ高いが時刻は夕刻を指してくる。ナショナル・ギャラリーでもちょっと覗きましょうか?印象派をさらりと流して閉館の時刻。セインズベリー館の名画に後ろ髪ひかれながら地下鉄駅に向う。
夕食は地元で。タイ・エレファントかストラーダ...でもあまりお腹が空かないし、フィッシュ&チップスにしちゃう?街の古風な食堂然とした店内、クラウド・レモネードとコッドのフィッシュ&チップス、ビネガーと塩を振って気取らない夕食。
坂をのぼって陽が暮れて、ヒルから赤い夕焼けを見た。

LONDON 一日目

娘と二人旅。
夕刻にヒースローに到着してタクシーのほうが楽だが窓口に並びオイスターカード二枚を購入する。地下鉄ピカデリー・ラインからディストリクト・ラインに乗り換えて懐かしいリッチモンドの駅に着くとまだ明るい。旅のお宿はヒルの上のリッチモンド・ゲート・ホテルに予約をとってある。タクシーでホテルへ。チェックインを済ませて案内されたツインルームはこじんまりとしている。茶とモスグリーンで色調を渋く纏めた温かみのあるファブリック。窓から煉瓦の建物を眺める。
暗くならないうちに食事に出ましょうか。
外に出ると間もなくテムズの湾曲した景色が望める。

パブで買ったビールのジョッキ片手に歓談する人、ジョギングする人、犬の散歩と賑やか。テラス・ガーデンズは間もなく門に施錠をする時刻だろうか、子どもたちが登って腰掛けたマグノリアの木、美しい花壇も見える。坂を下りて橋の袂のオデオン映画館の前を通りノルマンディ料理店シェ・リンゼイに入る。娘も大学生になったことだし飲み物はりんごのお酒シードルを、娘はスープ、トマトとチーズのガレット(そば粉のクレープ)を、わたしはトマトサラダ、卵とチーズのガレットを注文。シードルは素朴な茶色の陶器のピッチャーから陶器の器に注ぐ。こじんまりとした店内のテーブルにはキャンドルが灯され、暗めの照明が接触不良なのか時折消える。ああ、この国に来たのだなあ...シードルの柔らかな泡にガレットがおいしい。
外は既に暗い、また坂を登って...娘と二人で時を飛び越えて、またこうして歩いているみたい。
ホテルの部屋に帰りコーヒー紅茶を飲んで、明日の朝食はお部屋に運んでもらいましょうか?注文書をドアの下にすべらせる。

京都旅--またいつか

気に入りの場処にはまた行きたい、何度でも。
蝉の声が優しい、晴れるだろうか。身支度を整えて最終日、荷物も纏め直ぐに出掛けられるように、朝食をゆっくりとってからホテル隣の三十三間堂へ一番乗り。懐かしい薫り漂う堂内にお経の声が響く。ずらり居並ぶ千躰の十一面千手観音像の行列。真横から覗く直線、斜線、直交する線と後光の円環。歩きながらひとりまたひとり、お貌の造作の違いを見分けながら、整然と並ぶ緯線と斜線が交差しずれてゆく。後光を頂いた眩い光りの束。眠るような目元、唇を固く引き結んだ頑なな口許、ふっくらとした曖昧な顔、顎をこころもち上げた顔、瞬きの途中、胸の前で合掌し、腹の前でひとつの眼を捧げ持つ。手に手に数々の品々を一つ一つ沢山持って。中央の観音様、思いの外の若いお貌で堂々と座し、生きとし生けるものを願う真言、お経の声を間近に聞いて、ご真影とお香も頂戴する。
と、この人は?前を真直ぐに見つめるお貌に出逢う。作者名と番号の札が付いている。創建当時から伝えられた限りある数の一体のようだ。落ち着いた顔、千手の腕も伸びやかな、また会いたい人。
二十八部衆のひとり、琵琶弾く摩喉羅の五つの目は何を視るだろう。